となりの彼女

水玉物語#080千年街
眠ってばかりの
君は
どんな夢を
見ているの
 僕のとなりにいる女の子は、幼い頃からよく知っていて、気がつくといつも僕のとなりにいる。子供の頃はただの仲良しでよかったけれど、この頃は二人の関係を考えることがある。

僕はとなりで釣竿を片手に昼寝をする彼女を横目で見ながら、ため息をつく。

僕の本当の気持ちを言えば、僕は出会った時から彼女のことをずっと好きなのだと思う。まだ本当に幼い、物心ついた頃に、彼女を初めて見た時、その向こうの森や庭の芝生や花壇がいっせいに輝いて見えた。それからずっと僕は彼女にたぶん恋をしている。
けれど、彼女の方はわからない。なにしろ、彼女は風変わりな子だし、口を開けばくだらないでたらめばかりついて、となりにいても半分は眠っている。約束は忘れるし、そうかと思えば、寒空の下でずっと僕を待っていたりする。

他の女の子みたいに泣いたり、怖がったり、群れたりしない。僕をのぞけば一人で何かしていることが多い。とても真剣に何かをしている。何をしているのか尋ねても、よくわからない答えが帰ってくる。

いつも遠くを見ていて、彼女の世界で楽しそうだ。
 着ている服もいつもどこか変だ。裏返しや前後逆に着ているのはよくあることで、靴下だって左右違う。サイズの合わない、驚くような配色の組み合わせ、ポケットには何かたくさん入っていて、飛び出している。今日は、帽子のように靴下を頭に乗せている。

それでも僕は彼女がとなりにいるだけで、世界が美しく見える。

僕だって、ときどき、長い綺麗な髪を揺らして、普通の服を着て、普通の話ができる女の子を目で追ってしまうこともあるけど、

となりでうとうと居眠りしている彼女を見ていると、やっぱりこの子なのだと思う。涙が出そうな気持ちになる。いつか彼女の心を抱きしめて、大丈夫、君はもう一人じゃないと言ってあげたい。なぜだろう、そう思ってしまう。


In the dream

 彼女は暗く鬱蒼とした世界を小さく光る希望のかけらをもって、たった一人で旅をしていた。その希望が消えたら世界は闇に包まれしまう、だからなんとしてもこの希望を、あの塔の上の一番上にある聖なる場所に届けなくてはいけない、と強い気持ちを抱えている。

なぜ、彼女が託されたのかわからない。
ただ最後の小さな希望が手の中にあったから、行かなくてはいけないの。

 彼女はぬかるみを歩き、岩場で足は擦り切れ、涙が出そうになっても、歯を食いしばり、前をにらみ歩いていく。今がどんなに暗く、光のない闇が恐ろしくても、この小さな希望があれば、世界にはまたなつかしい暖かい光が戻るのだから。私は諦めるわけにはいかない、と。

 何度もなんどもくじけそうになって、孤独と絶望に負けそうになっても、目を閉じると小さな希望は光り輝く未来を見せてくれる。そこには私の愛しい人たちが見える。ずっとずっと大好きな人たち。私のことを分かってくれる人たち。喜びを分かち合いたい人たち。いつも隣にいてくれる人。だから私はこの希望を消すわけにはいかないのだ。

 そして今、彼女は長い長い旅の末に、長い長い階段を上がり、小さな希望を塔の上に届け終えた。「よかった。間に合った」と、彼女は膝を落とし、力尽きてその場で小さく丸くなって眠り込んだ。もうこれ以上一歩も動けないや。でもいい気持ちだよ。
 
 いつものように裏庭の小さな川で、夕暮れの光に照らされ、釣竿を握ったまま眠っていた女の子は、ゆっくりと目を覚ます。
そして僕に言った。

「私はずっとあなたのとなりにいるよ」

僕ははじめて彼女が嘘でもデタラメでもなく、まっすぐ僕の目を見て話すのを聞いた。とてもくっきりとした素敵な笑顔でにっこりを微笑むのを見た。

「おめでとう」
僕は驚き、なんと、美しいのかと思った。

一つの季節が終わり、次の季節がはじまったのだ。

一つの夢を終え、次に向かうのだ