優しき夜の憧れ

水玉物語#070メランコニア

夜は優しく
私を包む
鳥は優しく
夜を歌う
 心を誘い出す心地よい夜でした。

 ナタリーは隣に眠る人を起こさないように、窓から外にそっと出ました。時刻は真夜中です。大きくて丸くて、触れられそうなほどの大きな月がそこにありました。人気のない夜はまるで優しい音楽を奏でているようです。彼女は昔好きだった歌を思い出しました。
Why can birds fly?
Why can birds sing?

 寒くも暑くもなく、人肌の澄んだ夜は、夜の始まりと深夜の手前で行き来しているようです。時計は夜に沈んでしまったのかも。

 ナタリーは素足のまま庭を歩いて、その感触を楽しむと、庭の大きな木の下に寝転んで月を見あげました。両手両足を長く伸ばして、首の力を抜いて、胸を天に広げると、木には鳥が何羽か止まっているのが見えました。123456,7羽。

 彼らは夜にあわせて静かに歌い出しました。

 ナタリーは夜に歌う鳥を知りませんでした。だからでしょうか、なぜか、落ち着かない気持ちになって、「私は今まるでそんな気分じゃないの」と言ってみたけど、鳥たちのコンサートは枝から枝に羽ばたいたりして、まるで浮かれているのです。

 きっと鳥たちも今夜の月に誘われて眠れないのかもしれない。そう思うと、ナタリーは急に気持ちが楽になって、音がすこしきれいに聞こえるようになりました。
 ナタリーは長い間、月明かりに照らし出された鳥たちを見ていました。リスが何匹か巣穴から出てきて少しはなれた枝でそれを聞いていました、フサフサの尻尾をふりながら。小さな虫たちも祝福のように煌めいて宴に花を添えました。その様子を見ていたら、ナタリーの目に涙が浮かびました。どうかしてます。
Why can't I fly?
Why can't I sing?
 一羽の鳥が低い枝に降りてきてナタリーに言いました。

「そんなところにいないで、君も飛んでごらんよ」
「ダメよ、私は飛べない、生まれつき翼がないから」
「そんなはずはないよ。翼がないなんて」
「だって、私は鳥じゃないもの」
「変なこと言うね、君はどうみても鳥だよ」

 鳥は首を傾げて言いました。

「はやくおいで。夜は長いけど、永遠には続かない」

 気がつくと、ナタリーはいつのまにか部屋に戻ってベッドで眠っていました。
明け方にほんの少し目を覚ましたけれど、まだとても眠くて、シーツを首に巻きつけて、もう一度深い眠りに落ちました。

次こそは、飛び立つでしょう。

この夜から
そっと
飛び立つでしょう