水玉物語#071パステル
目を覚まして 洋服を選ぶたび 私は違う私になる
クローゼットの中から洋服を選んで、着替えるたび別の人になれたらいいなと思ったことありませんか?私はいつもそう思っていたの。 洋服たちはいろんなところに私を連れていってくれる。 誰かと笑いながらお話しして、仕事をテキパキとして、乾杯したり、タクシーに乗っています。船に乗って川を渡ることもあります。雨が降っていたら傘を貸してあげることもできるし。ビスケットを齧ったり、人にお礼を言われ、あなたは優しい人だと言われることもあります。 それはきっと洋服たちのおかげなのです。 けれど、本当の私はいつもひとりぼっちです。誰とも心が繋がっていないし、電話をかけたい相手もいないの。それは、私はこのクローゼットの中から、私の鎧を選択して誰にもわからないように、変身し、身を守っているから。 皮肉なことです。 男の子たちと気安く話す私も、少しお高く止まった私も、知的に意見を言う私も、女の子たちの話に相槌を打ちながら、たぶん、わたしは鎧の中。本当の私は誰とも会話していない、ただ雨の降りそうな外を眺めているだけです。 だからオレンジ色の月の細い夜、アパートの一室で窓の外を見上げながら歌いたくなります。 どうして私は一人なの? どうして誰とも愛し合うこともなく、いつもひとりぼっちなの?
Pourquoi suis-je seul Je suis là, seul. Pas d'amour, suis-je seul ? Regarde, tout seul.
ある日、その歌を月が聞いていたのか、私は一人の男性に会って、初めて恋をしました。彼の心も同じようで、私を食事に誘ってくれました。私はとてもとても嬉しくなったの。 でもその日、私はクローゼットの前に立ち、着ていく服が見つけられませんでした。どれを着ても、今の私には似合わないのです。私は彼に電話して、「着ていく服がないからいけない」と伝えて、誘いを断って、ベッドに潜り込んで泣きました。 これはきっと自分を偽り続けた罰だと。
しばらくすると、月の見える窓からガタガタと音がして、「やあ」と彼は窓からやってきました。私は驚いて、「どうしたの?」と掠れた声をあげました。 「扉から出ていく服はなくても、窓から屋根の上に出ていく服なら似合うのはないかと思ってね」 彼は私に一枚の白いドレスを手渡しました。飾りもリボンもない白いドレスです。私はそれに着替えて、彼とはしごを登って屋根の上にあがりました。月はいつもに増してきれいでした。 彼が言いました。 「君は鎧をつけてきたというけど、僕だっていろんな衣装をまとってふりをしてきた。でもそれは思いやりやたしなみ。時と場合をわきまえた振る舞いではないだろうか?」 この世界の日々はおしばいさ。僕らはいろんな役をひっきりなしにこなしている。けれど、そのすべてはこの世界でたったひとり、孤独な心を埋める相手に出会うため。僕らはやっとここまできたのさ。
「じゃ、いったい明日から何を着ればいいのかしら?」 「君の好きなものを」 私の本当に好きなもの・・・。 私の心にはまるで無限の宇宙に星がいっせいに瞬き始めたように胸が躍りました。 私の本当に好きなものを着て、私の本当に好きな人と腕を組んで歩く、ぺちゃくちゃと他愛ないお話をして、湖でボートを漕いで、森の木陰を散歩するの。 そしてこう言います。 「私、あなたが好きだわ」