水玉コネコ

水玉物語 #001 パステル

愛とか恋とかよくわからない、
私はネコになりたい 。
街が雨に滲んで水玉模様に見える、その向こうに別の街が見える

 その少女は高台の公園から街を見下ろしていました。公園には楽しそうな人々がいました。恋人たちや学校帰りの制服の子たち、親子。芸をするピエロ。私には生きることがよくわからない。

 急に雨が降り出して、人々はみんなどこかへ行ったけど少女はどこへも行かず、誰もいなくなった雨の公園で芸を続けるピエロを見ていました。ピエロは芸を終えると少女に一礼して、「最後まで、見てくれたお礼にあなたの夢を叶えてさしあげましょう」と言いました。

 気がつくと少女は不思議な街パステルにネコとして目覚めました。あまりもののない部屋に閉じこもって空想から街を作る少年に飼われるコネコという名のネコになりました。彼の名はミルク。ミルクはこのパステルの創造主なんだと言いながら、どこか悲しそうに見えました。

 ミルクは日々、お菓子やおもちゃで遊びながら、お話をします。あるときはピンクの雲と塔の話、あるときは三時のパレードの話。その度に大きな窓の外を見ると、パステルの街には塔や雲やパレードが現れるのです。

 ある時、ミルクはお話なのか本当のことなのか、ある一人の女の子の夢のためにこの街はあるといいました。




 ある日、コネコはミルクの外に出てはいけないという言いつけを破って天窓から屋根の上にでました。そしてそこから見える景色に驚きました。ミルクの作ったパステルはまるでおもちゃ箱をひっくり返したような無秩序で壮大な街でした。そして少しだけ好奇心と出来心で下界に降りてしまったコネコは道に迷ってしまいました。

 そこで強く美しい女、水玉に出会い、しばらく水玉の家に居つきました。そこでコネコは知ります。おとぎ話からミルクが作ったこの街で、人々は幸せに暮らしていないことを。「この街は働かないで楽をしたい、ならず者の集まり」と水玉はいいます。「でもなぜだろう、時々、ここが夢の国に見えるの。いつか、もしかしたらって思えて、みんな苦しくてもきっとここにいるのよ」と。コネコはミルクのある一人の人はきっと水玉なのだと思いました。

 コネコが塀の上を伝ってなんとかミルクの元に戻ると、ミルクは高熱を出していました。看病の術をしらないコネコは水玉を呼びに走り、水玉はミルクを看病しました。水玉はミルクを懐かしい遠くを見るような目で見ました。そして熱が下がるとミルクが起きる前に帰って行きました。

 熱が引いてからミルクは様子が変わって、少しぼんやりして窓の外ばかり見て、物語は完結しなくなりました。コネコは自分が言いつけをやぶって外へ出たことで、ミルクの保ってきた均整を壊してしまったと思いました。コネコとして暮らしながら、いつしかミルクを何より大切に思うようになっていました。

コネコは月に祈りました。ミルクの本当の夢を叶えてあげてください、と。すると現れたピエロがあなたの持つ水玉を引き換えにするなら願いは叶うと言いました。

 コネコは一度だけミルクの寝顔を見て、目を閉じると、自らの水玉(魂)と引き換えにミルクの願いを叶えたいと望みました。二人がもう一度出会って、始めから恋をして、この街で幸せに暮らすことを願いました。とても胸が痛いけれど。それでも切に願いました。

 おぼろげな夢の中で、街にはパレードが行われ、その賑やかな喧騒の中、広場で少年のミルクと少女の水玉は見つめあいました。そしてゆっくりと近づきました。コネコは良かった、本当に良かったと一粒の涙を流しました。


 夢の中、愛することを知った少女は、明け方の公園で目を覚ましました。

あたらしい世界が
明けるのです。