水玉物語#030ファラウェル
僕たちはただ
止まった世界に
夢を見ていた
ファラウェルの時計屋のパルカは、自分を人形だと思い込んでいて、家から出ることなく、店主のミシェルと小さな世界で暮らしています。時計屋の窓辺に座り、窓から見える塔の上に住んでいる少年を小鳥と名づけていつも眺めています。
ある時、ミシェルは大事な用で長期、留守にすることになり、パルカの面倒を見てくれる人を探します。友人からちょうどいい子がいると言われた子が、ミシェルの旅立ちの朝到着すると、それは男の子でした。名をブルーといいます。
ミシェルは誰とも関わったことのないパルカを心配しますが、その少年の不思議な目に大丈夫だと確信して、パルカをブルーに託して旅立ちました。パルカはそれを聞いて三日三晩泣き続け部屋にこもりました。
ブルーは街に唯一の丘の上の学校に転入届を出し、青い鳥と呼ばれる制服を手に入れました。
パルカとブルーの二人の生活が始まります。慣れないパルカと何も気にしないブルーは正反対で、いがみ合ってばかりいたけど、むしろなんでも言えるようになり、少しずつ二人の仲は縮まっていきました。
陽気で器用なブルーはすぐに学園の人気ものになりました。一人でいることの多いクリス(パルカの小鳥)とも仲良くなりました。
それを聞いて、パルカはブルーが小鳥によからぬことを吹き込んで、パルカがずっと窓から見ている小鳥が変わってしまったらどうしよう杞憂しますが、ブルーはそれを聞いて、初めからおまえの思い込みで、クリスはお前の思うような奴じゃない。といいます。
そして夏が来ました。
ブルーはクリスに半分騙されて、演劇に出ることになりました。二人は連日、放課後に練習をし、ブルーはその様子をパルカに伝えました。パルカは無関心を装って相変わらず家にこもっていたけど、だんだん、その目で本当のことを見てみたくなりました。
夏祭りの最後に行われる講演に勇気を出してパルカは外に出ました。けれど突然の強い雨が降ってきて、観客も団員も逃げ出し、ステージも水浸し、会場も水浸し、なにもかも無になってしまったのでした。
パルカは濡れたままぼんやりステージの前に立ちつくしました。
「ほら、だから、実際見るより、想像している方がいいじゃない。ブルーのバカ」
涙がこぼれました。世界のどこにも自分の居場所がないように思えたから。
その時、雨音の中にかすかに、音楽が聞こえ、ステージに礼服とドレスの二人が現れ、恭しく礼をして、ダンスを踊りました。パルカだけのために踊るブルーと小鳥のダンスです。雨粒に輝いてとても優雅で美しいひとときの夢。それは想像よりもずっと素敵でした。
パルカはダンスが終わると微笑んで拍手をしました
家に帰るとブルーもパルカも風邪をひいて熱を出しました。熱にうなされながら、パルカは夢を見ました。
パルカはあの時計塔の上に小鳥に会いに行きます。小鳥は塔の淵にこしかけて、遠い空を見ていました。 「何を見ているの?」とパルカは隣に腰掛けました。 「そろそろ、止まっている時間を動かす時かなと思って」小鳥は振り向くとパルカが来るのを知っていたように、優しく微笑みました。 「この時計?」 「うん。それに僕らも、この街も」二人は時計塔の大きな時計を見上げました。 「そしたら、会えるかしら?」かすかに何かがネジをゆっくり巻き上げる音がします。 「そうだね、きっと夜明けの広場で、君は店の準備をしているアイスクリーム売りから、アイスをもらって、噴水に腰掛けて食べている。僕はそこに通りかかる。そして話をする」 「何の話?」 「なんだろう。仲良くなるための些細な話だよ」 「それが、時が動いた先にあるもの?」 「おそらく」 二人は遠くに登ってくるひどく眩しいオレンジ色の光を見ながら、 「ブルー、僕らはただひどく臆病だったと認めるよ。君の言う通り。」
ブルーはその朝、パルカが眠っているうち店を出て行きました。入れ替わりに街に戻ったミシェルと駅で会いました。「ありがとう」とミシェルはブルーと握手をしました。
「もうこの街は大丈夫ですよ」とにっこり微笑みました。
「今回の任務終了」ブルーは一度だけ街を振り返り、この街の臆病で不器用な彼らが好きだったなと思いました。楽しい夏だったと。
ずいぶん長い間 時を止めていた街へ 君たちは臆病で想像力豊かで、 始まることを恐れて目をそらし、 淡い夢を見ていたけれど、 もう時は動き出した。 きっと傷つくことも、 悲しむこともたくさん起きる。 それでも、やっぱりちゃんと足で歩いて目で見て、 向き合った方がいい。 だって時というのは絶えずまっすぐ進んでいくものだから。 その先にある永遠に向かって。
このお話の別のお話
このお話の別のお話です。ここではパルカは時計屋の店主に特別な時間をもらって生きている人形で、同じように小鳥を眺めています。そして小鳥が大人になって時計屋を訪れます。