水玉物語#020 ファラウェル
少女がひとり 重たい足取りで 歩いている 夕暮れの帰り道
青い制服の少女は重い足取りで帰り道、夕暮れの河原を歩いて家に帰ります。ここは人気はなく、見晴らしも良く、一人になるにはちょうどいい。
少女は思います。
私は疲れているの。学校にも家にも、将来にも、本の中にも。何に疲れているのか、それは年頃の少女でいることに。女の子たちみたいに時計塔の男の子に夢中になっていることにも、男の子が時計屋の女の子に夢中になることにも。帰り道にはクタクタになってしまう。だからこの河原で石に座って赤く染まる雲を見る。あの向こうには私を疲れさせない国があると思って。
そんなある日。気がつくと隣に不思議な女の子がいました。傘をさして、ふわりとしたスカートをはき、夕焼け色の髪をくるくると巻いています。小さな羽が背中についています。「あなたはこの星の人?」その子が聞きました。
話を聞くとどうやらあの夕焼け雲の国から来たようです。少女はおどろくこともなく夕焼けを見つめました。それよりも二人はポツリポツリと話をして、お互いがお互いの国に憧れているとわかりました。
悩みは正反対だったけれど、それを聞いていたら、なんだか気持ちが軽くなりました。
「私ね、いつもベランダから見下ろしていたの。あなたたちの国は夜になるとたくさんの光が灯って、それは綺麗だから。あの光の中では楽しいことがたくさんあるんだろうなって」
私たちが夜にベランダに出て星を見上げるように。
「さあ、帰ろうか」二人はスカートの裾を払って、立ち上がった。
「また会えるかな」「うん、またここで」
その子は傘をくるくる回して飛んでいきました。
女の子は河原を歩いて、家路を急ぎました。次はどんな話をしよう、どんな服を着てくるかな。足取りは空を飛ぶように軽くなりました。
私たちって単純なのね。そう思いました。