水玉物語#059フォーエバーランド
森をいつでも 守ってくれる 優しい夢
ここはピンクの月の森です。この森は人間たちの夢見る心がピンク色の染めた月の魔法から生まれた森です。森に住むうさぎもリスも狼も鳥たちもいつもピンク色の光に守られて暮らしていました。でもいつからか森に異変が起きはじめました。ところどころ黒い影が差し、草木が枯れ始めたのです。
森の女王は困って月の女神に相談しました。ピンクの月の戦士を甦らすことにしました。原因は人々の心の中に生まれてしまった黒い心の石。それを取り出してピンク色に変えれば、人々の優しい夢からできた森も元に戻るというのです。
選ばれたのはウサとリス。二人はそのための魔法と人間の姿をもらいました。
二人は人間の世界で、慣れない生活を始めました。
そしてピンク色の満月の夜には黒い心の持ち主から石を抜き取るのです。けれど石を抜き取るとその主は生きる希望をなくし廃人のようになってしまうのです。すべての心がピンクになればハートは戻ってくるのだけど、二人はとても困惑します。まるで悪いことしているみたい、と。
世間は二人を満月に現れる死神のように言いだしました、二人は女神様を信じているけれど、噂を聞くと悲しくなりました。
あるとき、リスは人間に恋をしました。でもその相手は黒い石の持ち主だとわかりました。ウサはリスの気持ちを案じつつも、少しずつピンクになった満月が上がるとその石を奪いました。
「黒い心がある限り、恋をしても未来はない」と。
黒い石はこの宇宙からきらめく夢の光を奪い、黒い闇の世界に変えようとする悲しい力によって撒かれたカオスのかけらで、人々の夢見る心に付着して、やがては黒い心そのものにしてしまうのです。一度黒い心が付着したものはもう元には戻らない。やがては悪の化身になって、愛は憎しみに、喜びは悲しみに、楽しいことは傷つけあいに変わり、世界に闇をばら撒き始めます。だから、まだ覚醒しないうちに取り除かなければいけない。人々の夢の光によって輝いていた森は、だから危機に陥ったのでした。
その次にウサが恋をしました。ウサの恋は順調に進んでいました。二人は仲良く、ウサは幸せでした。けれど、彼もまた黒い石の持ち主でした。しかももう孵化する寸前の心。
そしてピンク色の丸い月が上りました。ウサはわかっているけど、どうしても心を抜き取ることができませんでした。「お願い、彼の心を奪わないで」「ウサちゃん、気持ちはわかるけど。だめだよ、彼の黒い心はもう目覚めるって」「だめ、お願い」ウサはリスと戦うつもりでした、目に涙をためながら。
「ウサちゃん、目を覚まして」リスはウサにムーンピンクウェーブを放ちました。ウサは吹き飛ばされ、それを青年が受けとめました。「そんなに僕がすき?」涙の目で青年を見上げると、彼はウサの腕を強くつかみ、「それなら僕のために死んでよ」と首に手をかけました。ほほえんだ彼は今までの彼ではなく、黒い心を持った誰か。ウサもリスも、青年の顔に浮かぶ狂気の断片を見て、黒い心の恐ろしさを知りました。ショックでピンチに陥ったウサをリスが助け、寸前で覚醒前にブラックハートを奪いました。
そして二人は夜明け前の塔の上で抱き合って泣きました。「どうしてこんなことになってしまうの?」「どうして黒い心などあるの?」黒い石を取り除かない限り、夢の光は戻らない。私たちの森を返して、私たちの恋を返して。夜明けの空が赤くなり、ピンクの濃くなった月が溶けていきました。
それから二人は一度も泣かずに、精力的に仕事をしました。月は常にピンクに染まっていました。
いよいよ最後のひとつ、それは小さな子供。黒い心の邪悪さを目にした二人は、それから悪魔といわれようと、死神と揶揄されようと、躊躇せず黒い心を奪ったけれど、最後に苦しみました。「なぜ、こんな小さな子が黒い心を持って生まれてこなくてはいけないの?」それでも二人は手を下しました。これで最後。忘れていた涙が出ました。
月は完全にピンクになりました。すべては終わったのです。
目を覚ますとそこは森でした。夢の光に満ち、希望に満ちていました。二人はりすとうさぎに戻っていました。もう黒い心を探さなくていい。もう黒い心を奪わなくていい。森を脅かすものはもう、ない。森の女王は二人を抱きしめて褒め称えました。
二人はその夜、浮かんだ月に、願いました。もう一度だけ人間になりたい。月の女神は一度だけ、と魔法をかけてくれました。そして人間の世界に戻りました。
二人はビルの上に腰掛けて眺めました。誰の心の中にもピンクのハートが浮かんでいることを。本当に終わったことを。
そして微笑み合うと森へ帰っていきました。大好きな森へ。