水玉物語#084 フォーエバーランド
空を見上げたネコと 地上を眺めた天使の ほんの少しの間のできごと
四角い草むらを歩いていたネコがふと足を止めて見上げると、一羽の天使がふわりと空を舞っていました。
水色の空と雲の間を、花びらを散らしながら、東から西へとゆっくりと流れています。
ネコは天使を羨ましいと思いました。
澄んだ空を舞う天使は地上に、四角い草原の中に立ち止まり、丸い目で天を見上げるネコを見つけました。
その小さな足元には点々と花が咲いています。
天使はネコを羨ましいと思いました。
天使はネコに言いました。「なぜ、私をじっと見るのですか?」
ネコは答えました。「あなたが羨ましいのです。空を軽く飛べる羽を持つあなたが」
天使は微笑んでくるりと回ると、「こんなこともできます」と言いました。
ネコは「まったく、羨ましいです」と尻尾で円を描きました。
天使はそれを感心しました。
「けれど、飛ぶことはできても私は地上にとどまることは出来ません。私だって、あなたみたいに一人草むらでポツリと過ごしてみたいのです。なんの使役もなく」
と言いました。
ネコは首を傾げて、
「地上はそんなにいいところではありません。始終お腹は減るし、雨の後には泥だらけになるし、一人ぼっちで歩き疲れて眠るのは、惨めです」と言いました。
天使は目を輝かせて、
「始終お腹が空く!泥だらけ!一人で惨めに眠る!」と金の粉を降らしました。
とても綺麗なきらきらひかる粉です。
「どうですか、ネコさん。私と一時、交換してみませんか?」天使が言いました。
「交換ですか?」
「ええ、私はネコになり。あなたは天使になります」
ネコは驚いたけれど、それは面白い。天使になれば、見ることはないと思っていたあの雲の上にだって。山の向こうにだって行ける。と承諾しました。
天使とネコはその午後、入れ替わった姿で、ネコは羽を広げ空を漂い、天使は足で草原を歩きました。
それは夕暮れまでの誰も知らない一時でしたが、
「とても楽しかったです。ネコさん」「私もです、天使さん」
と微笑みあって、二人はまた、元の姿に戻りました。
「でも」
二人はそれ以上言いませんでした、けれど、言葉は宙をふわふわ飛んで、やがて消えました。心がいつになく軽くなりました。
そしてネコは草むらを歩き、その向こうへ渡りました。
天使はゆっくり西の空へ、羽を広げました。
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