水玉物語#021メランコニア
私たちは 月から来たうさぎ いつか月に帰るうさぎ だから心配しないで
暑い夏の日でした。新米弁護士のミウラ・マルローのところにうさぎの耳のついた帽子をかぶって揃いの服を着た二人の女の子がやってきました。二人は扉を開けると挨拶もせず、厚かましく入ってきて、ソファーに座って飲み物をねだり、部屋の中を物色したりしました。 マルローが、用がないなら帰ってくれと怒ると、分厚い封筒をポケットから出して、それで私たちの弁護をして欲しい。約束だよ。と言って帰っていきました。マルローはてっきり冗談だと思ったら、それは本物の札束でした。返しようがないので、どうしようかと迷っていると、それからしばらくして、弁護の依頼の電話が来ました。殺人事件の弁護です。 拘置所に会いに行くと、あの二人がいました。相変わらずうさぎ耳の帽子をかぶり、ふざけてばかりいました。調書にもまともに答えない。名前はミナとワラウサ。その上、二人は月からやってきたうさぎだというのです。 けれど、森に住む画家の男を殺したのは本当だといいます。二人に聞いてもらちがあかないので、マルローには二人がどうして男を殺したのかあれこれ推測し、二人のことを調べ始めます。男を殺さなくてはならない理由があったのではないか、事件につながる過去があるのではないか、などと。隣町の孤児院で昔居なくなった双子の女の子の話、森の画家の家で見つけた二人が書いたとされるスケッチブックの漫画。「月とクランベリー」にヒントがあるのではないかと推測しました。
けれどどれだけ調べても肝心の本人たちが、罪を認めていますし、ふざけるばかりで何もわかりません。そうしているうちに判決の日は近づいてきます。マルローは檻の中を月面と称して遊ぶ二人を前に、自分の無力さに打ちのめされました。
「どうしてだ。どうして君たちはちゃんと自分の罪と向き合わないんだ。僕はただ君たちを助けたいんだ」と涙しました。
ミナとワラウサは「大丈夫。ミュウミュウ、私たちミュウミュウのおかげで助かっているよ」となぐさめました。
そして、ひとつだけお願いがあるの。と言われ、二人を一晩だけ牢の外に出しました。(そんなことできるわけないのに)
二人は人気のない道を飛び跳ねて、森の奥へ行くと、なぜかクランベリーの実を摘み取って、沼に浮かべ小さなボートに乗ってオールでかき混ぜた。そして夜が明ける頃、「これでよし!」「危ないところだった。もう少しで間に合わなかった。ミュウミュウのおかげだよ」と牢に戻っていきました。それを一晩中見ていたマルローにはもう、何かを考える気力がなくなってしましました。考えても無駄なのだ。
そして二人はそのまま有罪になりました。
マルローは街はずれの丘の上にのぼり、風が二人の残した「月とクランベリー」をめくくりました。法律も、事実ですらも真実を表しているとは限らない。だから、僕は自分で決めるしかない。そう思いながら風に吹かれ、山の上にのぼった月を見つめました。
あの二人は月からやってきたうさぎで、これはすべてあの二人が書いた物語。きっと月ではとてもきれいな物語。すべては彼女たちの思い描いた通り。 そう心を決めました。