水玉物語#011メランコニア
永遠の愛を探して 愛を集める 二人の夜
その塔のように高くそびえた高層マンションの一室の重たい扉を男があけると、バルコニーの窓は開いていて、カーテンが揺れていました。広いバルコニーにはワイングラスを傾けた女がいました。
「よう。ひさしぶり」男が声をかけると、女は体をのけぞらせて彼をみて微笑みました。彼らは毎月、満月の夜、ここで会うのです。
「今回の収穫はどう?」「まあまあだね」「永遠の愛は見つけた?」男はポケットからキラキラ光る石を取り出すと首を振りました。「君は?」女は肩をすくめました。
彼らは天使でした。女神様の言いつけで、地上の人間に紛れて愛の結晶を集めています。目的は愛を集めること、その中にある永遠の愛を見つければ彼らは天の国に帰ることができるのです。でもそれは見つかりません。クローゼットの中にしまい込まれた愛の結晶はもう入りきらないほどになったというのに。
彼らは慰め合います。
「君はますます美しいから、男たちが放っておかないだろう」
「あなたこそ、その綺麗な目で見つめたら女の子たちは一目で恋に落ちるでしょう」
「でも永遠の愛はどこにもない」
もしかしたら、これは使命じゃなくて、罰なんじゃない。私たちはただ天から追放されて、人間にもなれず、ここにいる。愛の結晶を集めても、集めてもどこへもいけないの。
「ねえ、この結晶を空から全部蒔いたらどうなるのかな?」
「街が愛で埋め尽くされるんじゃないかな」
「すてき」
「でも僕らは間違いなく追放される」
「でも、追放されても同じことじゃない?」
ふと二人は考えました。そんなこと思ったこともなかったけれど。
「今日は月も星も格別に綺麗だから」
「よし、やるか」
「そうこなくっちゃ」
二人はクローゼットの中にしまってある愛の結晶を袋に詰めました。そして一番素敵なドレスに着替えると、新しいシャンパンを開けて乾杯しました。
「ねえ、飛べるかな?ずいぶんひさしぶりだけど。どうやるんだっけ」
「まず天の空気を吸い込む、背中に意識を集める。羽を感じる」
二人はその背中に羽を現しました。
「そうそう、思い出した。羽を広げ、心を空にして世界と一体化する」
「そして意思を持って羽ばたく」
二人はゆっくり空へ浮かび上がりました。
「ねえ、私、あなたと一緒ならそれでいいの」女が夜風と遊びながら言いました。
「うん。運命を永遠に共にしょう」男が女の頬に触れました。
そして二人はありったけの愛の結晶を空から撒き散らしました。人々は知るだろう、愛は空からやってくる、と。どこかの天使が永遠の愛を秘めながら集めた愛は、ある日星の瞬きと共に降ってくる、と。