甘い蜜

水玉物語#019サーカスシティ

私たちはただ蝶になって
夕暮れの向こうに
飛び立ちたかっただけ

誰もが甘い蜜を必要としている




女の子だけの学校にその誰もがうっとりするような教師がやってきて、女の子たちはみんな夢中になり、彼を不思議先生と呼んで学校は浮き足立ちました。

不思議先生はその生徒の中から何人かの生徒を集めて、課外授業をはじめることにしました。選ばれた生徒たちは選ばれたことに得意になるけれど、「理由は君たちが大きな欠点を持っているから」と言われ、しょんぼりしました。不思議先生はとても綺麗な顔で言うのです、「そんな欠点ばかりの君たちにぜひ演じてほしい演目があります」でもなんだかその目は寂しそうに見えました。そして、特別クラスは演劇をすることになりました。

ある世界では夕暮れを舞台に愛を集めるために飛び立つ、蝶たちの巣の様子を戯曲にしたもので、書いたのはなんと不思議先生です。それぞれ欠点を抱えた蝶たちがそれを自分だけの魅力に変えて愛にたどり着くお話なのです。

ところが練習していると、ある時点から生徒たちが脚本にはない言葉を自発的に話し始めます。そしてお話の中に、永遠の愛を得るためにエメラルドの蝶を、初めから一点の欠点も持たない美しい蝶を、生み出そうと話し始めるのです。他の蝶たちのはかない愛の希望をその蝶に託そうと。

その会話を聞いて、不思議先生はどこか苦しそうに胸を押さえます。でも生徒たちは止まりません。言葉が勝手に出てくるのです。

やがて、エメラルドの蝶が誕生しました。誰もが一瞬で恋に落ちる、永遠の美しさを持つ蝶です。他の蝶たちは彼女を大切に育て、成長し、エメラルドの蝶も愛を集めにもう1つの世界へ飛んで行くのです。

けれど、エメラルドの蝶は自ら恋をしてしまうのです。そして恋をしてしまった男の愛を奪ってしまうことに。愛を奪われた男は生きる希望を失い、虚ろになるのです。エメラルドの蝶は悲しんで、自らの命を彼に与え死んでしまいました。悲劇です。残された男は永遠に彼女を思い、ただ生きて行くことになります。

少女たちは訪れた結末に、なんとも言えない気持ちになり、押し黙りました。

放課後、不思議先生は教室で一人夕暮れを眺めていました。

そこに少女たちが入ってきて、一列に並び、小さな台詞を一人ずつ言いました。

私たちは時々どこかの誰かになる
「私は幸せでした」「あなたに恋をして」「あなたに愛されて」「永遠を見ることができました」「どうかこれからは」「あなたの人生を」「生きてください」「私はいつもそばにいます」「永遠に」

それは、物語の最後エメラルドの蝶の台詞です。

不思議先生は何も言わず、一粒涙をこぼしました。私たちはその一粒の涙を見つめ夕焼けはいつよりも赤く、長く、私たちを照らし続けました。





不思議先生、
わたしたちも
欠点を美しい羽の模様に
することができたでしょうか?