水玉物語#25サーカスシティ
金曜日の砂時計 小さな秘密は 砂糖菓子
モネは洋服を作る仕事をしています。洋服を作るのは大好きだけど、なかなか仕事では好きなものを作ることができないので、時々ぼんやりしています。そこで、ふと思いついて金曜日までに仕事を早く終えて、金曜日の夜だけは好きなものをコツコツ作ることにしました。それで何が変わるわけではないけれど、少しワクワクしました。
その金曜日はずっと作っていたドレスがあと一歩で完成する満月です。遅くなってしまったのでドレスを家で仕上げようと、バックに入れて外へ出ました。ポケットを探ると、同僚のルカがくれた水色のタクシー券がありました。そういえば同僚は言いました。「この券があれば不思議なタクシーがやってきて、一番行きたいところに連れて行ってくれるのさ」眺めていると、目の前に水色のタクシーがやってきました。モネはなぜだか迷うことなく乗り込みました、車の中は暖かくてモネはうとうとしてしまいました。
「着きましたよ」と起こされて着いたのは月明かりに輝く一面の草原でした。「ここは」モネが尋ねると、「ここがご希望の場所です」と運転手は礼儀正しく一礼して、行ってしまいました。
草原に一人置いて行かれたモネはここがどこか考えるより、目の前の景色に心奪われました。大きな白い月に照らし出された草原は、きらめいてどこまでも、どこまでも続き、小さな風に波立ち、「なんてきれいなのかしら。私はなんだかここを知っている気がするの」モネは吸い込まれるように草原を歩きました。
歩くごとに心が軽くなって、空っぽになっていきました。いつの間にかいろんなことが重たくなっていたんだわ。ただ素敵なドレスを夢見て、絵を描いてそれを作れればよかったはずなのに。
しばらく歩くと傘をさした女の人影がモネを誘うようにくるくる回りながらかけていきました。「待って」とモネは追いかけました。その先には大きな木があり、人影はその向こうへ消えました。モネも追いかけてその向こう回ると、そこには布や木箱で作った粗末だけれども、草原と同じように煌めいた劇場がありました。
モネが驚いていると「やあ」とシルクハットをかぶって現れたのは、同僚のルカでした。「ようこそ、水色草原劇場へ。ずいぶん前に君を招待したのに遅かったじゃないか」とクルリと回って見せました。水色の燕尾服の裾が優しく揺れました。
「さあ、君たち練習を始めよう」ルカと数人の仲間たちは一礼すると、モネを舞台の前の椅子に座らせ、劇の練習を始めました。それはライオンの王様や鏡の精の出てくる古いおとぎ話でした。モネはいつのまにか物語に魅入られました。そのシーンが終わると立ち上がって拍手をしました。「素晴らしいわ、ルカ。ねえ、もっと見せてほしいの」
するとルカが次のシーンは一人出演者が足りないんだと、ルネに参加するように言いました。「しかも、君はおあつらえ向きにドレスを持っている」とルカに言われて、モネはカバンの中からあと少しで完成するドレスを取り出すと「これを私が着るの?」と尋ねました。モネは自分の作った服を着たことがないのです。
モネは少し躊躇したけど、みんなに促されて着てみると、魔法にかかったように心が浮き足立ちました。そうだわ、この気持ち。私が求めていたのはこの気持ち。
その日から金曜の夜にはその場所で水色草原劇団の練習に加わるのがモネの楽しみになりました。ルカとは職場でも会うけれど、そっと目配せして秘密にしています。
そして、物語はいよいよクライマックス、今夜でルカの書いた舞台は仕上がります。私たちはきっとこの特別大きな月の下で、そのお話を初めから通して演じるでしょう。その時、私たちはきっと今まで見たことのないものを見るでしょう。聞いたことのない音を聞くでしょう。感じたこのない、新しい世界が始まる。私にはわかる。待ちきれない。