ペーパーサーカス

水玉物語#027 ハピネス

小さな旅のサーカス。
つぎはぎだらけの帽子をかぶった団長
ピエロと人形使い、双子の踊り子とロバ
それだけの小さなサーカス。

小さなサーカスは旅をしてはあちこちで芸をしているけれど、たいして喜ばれません。

なぜなら、みんなサーカスといえば象がいたり、空中ブランコをしたり華やかな夢を求めているからです。紐に吊るされた古びた人形が動いて喋ったり、ピエロが小さな花をポケットから出したり、双子が揃って歌い踊るだけの夢はいまでは見向きもされないのです。

とうとう旅の最後に訪れるという町までやってきてしまいました。町外れで焚き火をしながら、団長は考えました。団員たちは少し浮かない顔をして他愛ない話をしていました。みんな少しお腹がすいています。

どうやら僕にはサーカスの団長としての資質がないようだ。団員も集まらないし、目を輝かせてくれる子供達も、援助してくれるパトロンもいない。もうこのサーカスは解散したほうがいいのかもしれない。団長はそう思いました。

団長は解散することを伝えようとして、なかなか言い出せず、ロバが下した荷物の傍にあった紙芝居を使って話を始めました。団員たちは驚いて団長を見ました。団長がしたのは小さなお話でした。

それは小さい頃、ママから聞いた話。
眠れない僕にママが言ったこと。

『誰の心の中にもサーカスがあって、願ったことを物語にしてくれるの。それは紙でできたサーカスなの。だから涙には弱いの。でもすぐに上から切ったり貼ったり色を塗ったりできる。物語は時に悲しいことも困難に見舞われることもあるけれど、必ず最後には願ったことにたどり着くの。だからまず、願うこと。どんなことでも願えばそれを叶えにサーカスはやってくる』

するとみんなが目をキラキラさせて団長の話に聞き入りました。その目を見た団長は解散とは言えず、頭の中に浮かんだお話を面白おかしく話し始めました。紙のサーカスは夢のはじまりをのせて旅をして歩く、時には雨が降り、時には道に迷い、時にはお城に呼ばれ、仲間とともに旅をするお話です。

ピエロはそれに合わせて芸をはじめ、踊り子は踊りました。人形遣いの人形は器用にバイオリンを弾き、ロバは静かにしっぽをゆらしました。

団長が話し終えると一同は手を打ち合って喜びあいました。団長は何が何だかわからずいたけれど思い出しました。団長には夢があった。ここにいるみんなにも同じ夢があった。サーカスがやってきて、夢のはじまりを配って歩く、そんな夢です。

そうか、これはあの夢の物語なのか。まだまだ物語の途中なのだと。

それから一同は、紙芝居の中に象やライオンや空中ブランコが出てくるサーカスを作って、自分たちはできること楽しむことにしました。それは不思議と人々の夢のはじまりとなっていきました。たとえ紙の中でも夢見たことは必ず始まる。願いごとを乗せてサーカスはやってくる。ほら、音が聞こえる。

夢の世界のはじまりがやってくる。