水玉物語#023 パステル
ありがとうの
かわりに
あげたいものが
あるの
ある雨の日、少しだけ名の知れたミュージシャンのななほしは、公園で雨に打たれている、女の子に傘を貸しました。女の子はリコ、愛想はなく、口も悪い。長い髪の一部が角のように立っている女の子です。
そして夏が来て、新曲が書けずにスランプに落ちていたななほしは、なにをするでもなく、街をぶらぶらしていました。その先々でリコに会うことになりました。
最初はななほしの行きつけのレコードショップで働いていて、「やぁ」と声をかけたななほしにふんとそっぽを向いたけれど、ななほしの買い物袋にいつのまにかレコードを勝手に入れいました。その聴いたこのないレコードは、ななほしに不思議なインスピレーションを与えました。
次は楽器屋の前で楽器屋のショーケースに飾られた幻のギターのレプリカを眺めるリコに会いました。飾られているギターを見ていたら、まだ無名の頃ギターを弾くだけで楽しかった頃を思い出させました。ななほしはリコがギターを欲しがっていると思い、自分のギターを与えました。リコはその幻のギターを欲しいかとななほしに聞きました。ななほしは軽い気持ちで、このギターがあればまた名曲がつくれるかもしれないな。とつぶやきました。
リコは幻のギターの持ち主を調べ、手紙を書きました。そしてななほしからもらったギターを売って、航空券を買いました。ななほしはブツブツ文句を言ったけれど、相変わらず曲は書けないので、リコと一緒に飛行機に乗りました。
ついたのはどこか遠いずいぶん無秩序な街で、今夜変わった催しがあるといいます。開催者の主人はあの幻のギターの持ち主で、今夜はそれをレースの商品にすると。
レースとはてんとう虫レース。
屋敷に着くと、リコはななほしに用事があると言いました。それからあなたには才能がある。いままでよりもっともっと凄い曲が書けると。ななほしはいつになく真剣なリコに、驚きながらありがとうと言いました。
そしてレースが始まると、一匹の頭に角のあるてんとう虫の必死に飛び、一位になりました。それはななほしも見入ってしまうほどの迫力でした。
そして、歓声とともにななほしはステージに呼ばれ、あのギターを手渡されました。シャンパンでいい気分だったななほしは、なんだかわからないまま、そのギターを弾いて歌いました。今まで聞いたこともない素晴らしいメロディが後から後から生まれてきました。
ステージを降りると、さっきのてんとう虫が力尽きて死んでいました。ななほしはその雄姿をたたえて、どこかに埋めてやろうとハンカチに包み、そしてリコはどこに行ったのかと探しました。
このお話の続きのお話
リコがてんとう虫だと知らず、どんどん冬に近づいていく公園で待ち続けるななほしと、諦めさせようとする二人の天使の子供のお話です。そして雪は降り始め・・。