水玉物語#088サーカスシティ
Where is The Robbin?
エマは優しい叔父のミシェルからもらったフクロウのぬいぐるみに、ジル・アボットと名前を付けました。ミシェルがなぜだいと聞くと、だってこの子がそう言うの。と肩をすくめました。 その日からエマは眠る前のお話をせがむこともなく、「おやすみなさい」と、自分からベッドに入るようになりました。ママとパパは、ジルが来てからエマはずいぶん大人になったものだね。と感心しました。 そうです、エマにはフクロウの声が聞こえたのです。だから、おやすみを言った後で、ベッドに潜り込んでおしゃべりをするのです。もちろん内緒で。 ジルは遠い宇宙から、危機に直面したこの星を救うためにやってきた宇宙フクロウなのです。 ジルの使命はロビンを探すこと。ロビンというのは同じく宇宙フクロウで、この星を救うほどの強い力を持っている伝説的なフクロウです。 「つまり、ロビンはフクロウなのね。コマドリではなく」 「そうよ。平和な地球でフクロウの姿をしているの」
エマは持っている絵本をすべて持ってくると、ページを捲ってフクロウの絵を探しました。 「きっとロビンはここにいるわ。こんなにたくさんあるんだもの」 「これはロビン?」 「いいえ」 「この子は」 「いいえ」 けれど、そこにロビンはいませんでした。 「すっかりフクロウが好きになってしまったようだな」とパパとママは言いました。
次に図鑑の中も探しました。 「これはロビン?」 「いいえ」 「あの子は?」 「少し近いかも」 森の写真もじっくり見たけれど、フクロウは木々の中に隠れていて見つけることはできません。
それからパパとママとのお出かけの時や、お散歩のときにフクロウがいそうなところへ行ったけれど、ロビンは見つからず、ヒントもありませんでした。 よく考えたら、この広い世界の中のどこにいるかわからないフクロウを見つけるなんて不可能です。ましてや、この小さな女の子のエマとぬいぐるみのジルが。エマとジルはしょんぼりして、とぼとぼと歩きました。
そんなある日、旅から帰ってきたミシェルがやってきて、 「おやおや、いったいどうしてこの家はこんなに重たい暗い空気なんだい?」と驚きました。パパとママはこの頃部屋にこもりきりのエマとジルのことを心配して、何かできないかと悩んでいると話しました。 ミシェルは話を聞いて、「なるほど」とエマの部屋をノックしました。「入ってもいいかな?」「いいわ」と小さな声がしたので、扉を開けると、エマはジルを抱きしめながらベッドの隅に小さくうずくまっていました。ミシェルはベッドに腰掛けました。 「何か悩んでいるって聞いたよ。もしかしてロビンのことかな?」 エマは驚いて顔を上げました。 「知っているの?」 ミシェルはエマの頭に大きな手を置くと、 「ああ、知っているよ。実は僕もロビンを探しているんだ」と言いました。 それからミシェルはロビンを探して世界中を旅して回った話をしました。エマも絵本の中やお散歩のときに探して歩いたことを話しました。 「そうか、絵本の中とは気づかなかった。君たちはなかなかするどいな」 「でも、いなかったのよ」 「だけどね、僕はきっとロビンは本の中にいると思うな。世界中回った僕が言うのだから、きっと間違いないよ」
優しくミシェルが言うと、エマは急に泣き出しました。 「この星の危機なのよ。なのに私はなにもできないの。大好きなジルを助けてあげられない」 ミシェルは小さなエマが小さな心で、この大きな星を心配して心を痛めていると思うと、胸がいっぱいになりました。 「だいじょうぶ。もうすぐだから。さあ、顔を上げて、最後の冒険に出かけよう。僕たちには時間がない」 エマは顔を上げて 「でもどうやって?」とミシェルを見上げました。 「僕だって無駄に世界中を歩いていたわけではないんだよ。でも今日まで自分が見つけたものがなにか、わかっていなかったんだ。君たちにヒントをもらうまで」 「どういうこと?」 「ほら見てごらん」 ミシェルは上着のポケットから小さな本を取り出しました。 そこには箔押しの文字が書かれていました。まだ文字の読めないエマは「なんて書いてあるの?」と聞きました。 「The Robbin」とミシェルは片目をつぶって言いました。 エマはハッと息をのみました。「じゃ、ロビンはこの中にいるのね」 「そうなんだよ。僕は君たちが絵本の中にロビンを探していたというまで、そのことに気づかなかったんだ」
「ねえ、その本の中には何が書かれているの?お話?」エマはジルを抱えてミシェルの手の中の本をのぞき込みました。 「残念ながら、この中には悲しい予言が書かれているよ」 エマは読めない文字をじっと見ましたが、見ているだけで悲しくなりました。そして悲しい言葉の森の向こうで一匹のフクロウが泣いているような気がしました。 「ロビンが泣いてるわ」 エマは言いました。ミシェルは優しい目でエマを見て、優しく頭を撫でました。 「そうだね。ロビンはきっと少しずつ壊れていく世界に絶望しているんだよ。だからここに隠れてしまった」 「どうしたらいいのかしら?」 「君だったらどうする?悲しくなってベッドの中に潜り込んで、もうすべてが嫌になったとき、どうしたらもう一度元気になって、光ある世界に飛び出していこうと思うかな?」 エマはしばらく考えました。 「私なら、ベッドの横にそっと座って、優しく大丈夫だよって言ってほしい。怖いことは何もないよって。一緒に楽しいこと探しに行こうって。ずっとそばにいるよって。それから、外に出たくなるような楽しいお話を聞かせてほしい」 「そうだね。僕もきっとそうさ。じゃ、僕たちもロビンにそう伝えよう。思いつく限りの楽しいお話をしよう。そしてロビンが元気になって出てきたら、一緒に空を飛んで、この星を危機から救おうじゃないか?」 「ミシェルも一緒に?」 「もちろんだよ。だってこの星の危機なんだろう?」 「それはそうね」 それから二人とジルはベッドの中に潜り込んで、その本の中のロビンに優しい言葉やたくさんの楽しいお話を聞かせました。
いつしか眠ってしまったエマは夢を見ました。 無数の星が浮かぶ広い宇宙に、大きなピンク色の模様のついた羽をもつフクロウが、ゆっくりとゆっくりと羽を広げ飛んでいます。そこからこぼれるピンク色のきらめきが届いた星は、きらきらと輝きはじめます。あの星も、向こうの星も。光を取り戻しました。 エマは宙に浮かんだまま大きな声で言いました。 「ロビン、この星にもあなたの力が必要なの。どうかお願い。私たちの星を守って」 ロビンは丸い大きな目でエマを見ると、顔をくるりと回しました。そしてゆっくりと羽を広げ、黒い雲に覆われた水晶のような星の周りを、ぐるぐると回りました。すると星を覆っていた雲がみるみると消えて、水晶の星はきらきらと光り始めました。 エマはほっとして、抱いていたジルに顔をうずめました。 「よかったね、ジル。もう大丈夫」
次の日、エマが目を覚ますと、ミシェルは旅立った後でした。エマは残された小さな本を開いてみました。書かれている言葉はわからなかったけど、今度は、心が幸せになる言葉が並んでいると思いました。 最後に小さなフクロウと絵が書かれていました。 エマはその絵をそっと指で撫でると「ありがとう、ロビン」と、窓の外に広がる空を見上げました。 これからたくさん楽しいことが起こる予感がします。
もしそれが
君の空想だとしても、
その願いは本物