ゆめこの日記

水玉物語#034千年街

ゆめこは夢をみました
どこかで起きる楽しいこと

ゆめこは名前の通り夢みがちでした。いつでも心を自由にすれば、楽しい夢をみることができます。でも友達をつくったり、学校生活を楽しんだり、将来のことを考えるのは苦手でした。ゆめこの考えることはみんなと違って、ゆめこのしたいことも少し変わっているみたいです。

ある時パパはどうしていいかわからない夢子に、一冊の分厚い立派なノートを渡しました。夢みたことを書いてごらん。なんでもいいから。君が面白いと思ったことそれでいい。大切なのは夢見ることだけ、と、きれいな青い目でウィンクをしました。パパは他の遠い街から来た人なのです。パパの生まれた街はお皿の上に乗っていたといいます。

その日からゆめこはゆめ日記を書きました。

その街はここからずっと離れていて、時は未来です。偶然、その街のはずれの海に流れ着いた、どこかの国のリュックから日記が出てくるのです。それは「ゆめこの日記」です。

その日記が街のキッズたちが拾って、どこか見知らぬ古い街に興味をもちました。そしてそれはいつしか彼らのバイブルになるのです。

パパは言いました。「ゆめこはGODになりたいのかい?」

「ううん、違うの。家に閉じこもって漫画ばかり読んでいる、友達もいない女の子の日記が、海に流れ、未来の違う街でバイブルになったら面白いなって思って」

「なるほど、それは、素晴らしい観点だ」

そしてパパとゆめこはその日記を二人であれこれ言いながら、書きあげていきました。

夢物語の舞台は未来のパステルという街のパレード通りです。

その道端で何をすることもなく過ごしている男の子や女の子は退屈しのぎに「ゆめこの日記」を読んでは、「このあんみつってなんだろう?」とあんみつを真似して作って食べたり、「漫画っておもしろいそうだね」と漫画を描いてみたりしていました。服装もゆめこが描いた絵の服を作って着たりしました。

「それはどんなファッションなんだい?」パパが聞きました。

「ジャラジャラと鎖をつけたり、あちこち破れたりしている服よ」ゆめこが絵を見せながら答えました。

「それはまたどうしてだい?」パパが不思議そうに聞くと、

「なんとなくよ」とゆめこはいいました。

「なるほど、その「なんとなく」がこのゆめこの思想の要だな」と、パパが物々しく頷きました。

日記をすすめるうちに登場した主人公はカンカンとモナミのカップルでした。彼らは恋人でありバンド仲間です。パレード通りでは人気のバンドでした。彼らはゆめこの日記に感銘を受けたのです。夢子の日記は一部のファンの間で印刷され、知り合いから知り合いへ手渡しでしか読むことのできない幻の本となっていました。

「それはずいぶんとすごいことになったね。君の日記のファンというわけだ」

「そう、ひとり歩きしているのよ」

カンカンとモナミはある日、日記の中のある一節から思いついて、ゆめこの思想を広めるためにバイクに乗って旅に出ました。彼らのポケットには夢子の格言がたくさん入っています。それを旅先で出会った、悩める子犬たちに渡すのです。

「この格言というのは、例えばどんなことだい?」パパが聞きます。

「別に間違ってもいいじゃん。とか」夢子が答えました。

「なるほど、それは素晴らしい」パパが言います、「パパの格言も入れてくれないか?」

「どんなの?」「Don’t worry. Everything will be all right」

それは夢子が幼い頃から繰り返し聞かされた子守唄のような台詞です。

それから二人はカンカンとモナミがどこへ行くかを巡って、大きな地図を描きながら、物語を進めていきます。最後はパパの生まれた街にたどり着きます。

「ねえ、パパの街は本当にお皿に乗っているの?」

「その昔はね。パパも見たことはないけれど。神様のために作られた楽園だったのだ。でも神様たちはいなくなってしまって、残された天使と人間たちで新しい街を作ったんだよ。今はお皿は山の上に乗っているんだ」

「じゃ、もしかしてパパには天使の血が入っているの?」

パパはシーっと指を口に当てて、意味ありげに片目をつぶりました。

さて、ゆめこの夢の物語のカンカンとモナミですが、パパの生まれた街に着く頃にはポケットの「ゆめこの格言」のメモも最後の一枚となりました。

「ねえ、夢子。最後の格言はなんだったのだろう?」パパが物語を終わりを心配してききました。

「それはね、決まってるよパパ」」ゆめこは自信たっぷりに言いました。

悲しくなったら大きな声で歌おう

「そうか、それは気持ちがいいだろうな」

夢子は日記の最後に歌詞を書きました。

わからないことばかりだけど
好きなものはあるの
音楽もファッションもパパも好き
いろんな服を着て、髪の色を変えて
飛行機に乗って船に乗って
夢は未来にだっていける

小さな箱に入れているのは私
鍵を持っているのも私
いつでもあけることができるの

空想の綿菓子をたべて
夢を見て、生きていこう
自由になろう 心配はいらないよ

Don’t worry. Everything will be all right
私はゆめこ。夢見るゆめこ
パパがくれた、魔法の日記

Don’t worry. Everything will be all right
私はゆめこ。夢見るゆめこ
パパがくれた、魔法の名前

夢子とパパは本の最後を書きながら泣きました。

カンカンとモナミも歌いながら泣きました。

同じ夢を見て。

私が見た夢は
いつかどこかに流れ着く