水玉物語#047 パラディシュナ
泣きやむと 世界の色が少しだけ 変わってみえた
このお話の主人公は、クルクルと跳ねた髪と小さな背丈と華奢な手足、少し色素の薄い丸い目。どこか不思議な血が入っているから、みんなと少しずれている。少し変わった服を着て、いつも一人でいる女の子と周りからは思われています。
名前はリリー。白いお花のリリー。
リリーにはずっと好きな人がいます。リリーは幼ない頃から彼を知っています。人気がある男の子で、女の子たちはみんな彼の話をしています。背が高く、優しくて、素敵な服を着ていて、彼がいるだけでその場所がキラキラする人。
リリーはこっそり彼を目で追っているけど、周りには知られないようにしています。
知られなくないの。
ある日、街で偶然彼を見つけ、後をつける。ドキドキしながら。彼は一人で街をぶらぶらしながら、本屋さんに入ったり、カフェでお茶を飲んだりしている。リリーは見つからないように少し離れて、空想のデートをしました。物陰に隠れて彼の様子を伺っていると、
「おーい、なにやってんの?」後ろから声をかけられて、心臓が止まりそうになりました。
それはリリーと同じくらいみんなから浮いている変な奴、アダムでした。
「放っておいてよ。今大事なところなの」
リリーは彼の後をつけていることを隠そうとするけど、
「探偵ごっこかい?」
半分バレているようで、嘘をつきました。
「そう、頼まれて調査しているの」
「おもしろそうだ。僕も混ぜてよ」
アダムは楽しそうに言いました。
そして彼の後をつけるリリーの後をアダムもついてくることになりました。
でも夕暮れの橋の上までくると、
彼の元に長い髪の女の子が、橋の向こうから走ってくるのが見えました。彼は彼女を見てにっこり微笑みました。今日一日、一度も見たこともないほどキラキラとして笑顔で。リリーの小さな空想を重ねた夢は簡単に崩れ去りました。
私は走って、走って走って、高台にある公園に出た。 アダムも追いかけてくる。走って走って。 「足、速いんだね。今少し浮いていたよ、君はもしかして天使かい?」 息を切らしながら、 「あ」と、指差した。 見ると、とても綺麗な夕焼けだった。公園の柵越しに広がる街をくまなく赤く染めていた。 さっき彼が恋人を抱きしめた白い橋も小さく見えた。
リリーは泣きました。声をあげて。
何が悲しいのかわからない。彼に恋人がいたことなのか。
自分がそうなれないことなのか。好きだと言えないことなのか。
彼のいる世界に居場所がないことなのか。どこにもなじめないことなのか。
わからないことが悲しいと思いました。
アダムは何も言わずそばにいて、ハーモニカと取り出すと、静かに吹きました。
その音色はこう言っているようでした。
「僕は同類だから君の気持ちがわかるよ。 僕はそれでいいと思うよ。僕たちだって精一杯やっているよ。 だから、泣くだけ泣いて、変な奴ながら思ったところへまっすぐ行こうよ。 僕たちにしか見えない世界もあるだろう。 大丈夫。最後にはすべてうまくいく」
その曲が終わって、一番星が見えた頃、
リリーは泣き止むと、世界が少しだけ変わってみえました。