水玉物語#015水玉国
僕らは無人島の双子 さみしい時は 抱き合って眠る
サンとココは無人島で生まれて双子のように過ごしてきました。
二人しかいないけれど自然にいろんな風習が生まれて、季節や月の満ち欠けに合わせて、大切に日々を暮らしていました。
でもいつしか二人はそれぞれ別の世界を持つようになりました。サンは海からたどり着いた難破船に残された海の向こうに夢中になり、ココは洞窟に描かれた鳥の絵に別の世界を夢をみました。サンは船とバラバラになった地図を直して、ある日、ココにこの島を出てまだ見ぬ世界を探しに行こうと言いました。ココは悩んだけれど、島に残ることを決めました。
その前の夜、二人は幼い頃から月の綺麗な時に登っては星を眺め、岬の見張り小屋で眠りました。
「どうしても、行っちゃうの?」
「あの海の向こうに知らない世界があるんだ」
「どうして、ここだけじゃだめなの?」
「まだ見たこともないものがたくさんある」
「それはそんなに大事なこと?」
ココはこの島にはなんでもあると思いました。月も星も山も海も湧き水も鳥も私たちが作ってきたものも。それなのになぜ、それ以上を欲しがるの?
次の朝、サンは一人船に乗って島を出ました。「見たこともないものをたくさん持って帰ってくるから、楽しみにして待っておいで」と言って船を出しました。
ココはそのまま島で今まで通り暮らし、時々サンを岬で待ったけれど、サンは戻ってきませんでした。でもココは悲しくありませんでした。いつかちゃんとまた会える気がしたから。
それから数年して、すっかり成長したココはいつものように島の仲間(鳥やイルカ)と過ごしていました。そこに男が一人流れ着きました。ココにはすぐにわかりました。サンが戻ってきたのです。
サンはずいぶん流されてきたようで、意識を失っていました。ココはサンを家に運び、介抱しました。眠っているサンはココと同じように大人になっていました。
目を覚ましたサンはココの記憶を失っていました。
「僕は確か、世界中の素敵なものを集めて誰かに届けようとしていたんだよ。でもすべて失ってしまった」ココはサンが戻ってきてくれただけで嬉しかったけど、記憶を失ったサンは悲しそうでした。だからココは「覚えているだけでいいから、この島の外の世界の話を聞かせて」と言いました。サンは星空の下で話をしてくれました。話すごとにいろんなことを思い出して、元気になりました。でもココのことやこの島で生まれたことは思い出しませんでした。
ココは岬で一人大きな月を見ました。そして月と鳥の神様に祈りました。サンにとって一番いいことが起きますように、と。
次の日、サンの乗ってきた船が浜辺に流れてきました。サンは喜びました。そして船を直し、また航海に出る準備をしました。ココは島じゅうの食べ物を集めて、サンの船に乗せました。
サンは一緒に行こうと言いました。ココは首をふってここに残ると言いました。あの日と同じように。
その時、サンはすべてを思い出しました。ココのこと、島のこと。二人のこと。
「ココ、君なのか。ずいぶん髪が伸びた。ずいぶん大人になった。ずいぶんきれいになった」サンは震えながらココを抱きしめて言いました。ココは月と鳥の神様に感謝しました。
二人は砂浜に寝転んで星を見ました。サンは言いました。
「僕はずっと一人で旅をしていたけど、いつも君と二人でいるような気がしていたよ。僕の目は君の目で、一緒に見ているような。だから寂しくなかったし、不安もなかったんだよ」
ココは言いました。
「私も。ここにいて毎日同じような暮らしをしていても、冒険しているみたいにワクワクしたの」
サンは明日の朝、また船を出します。そして私はそれを見送ります。いつかまたサンが戻るのをここで待っています。私たちの無人島の双子。どうなろうとたった二人でこの島で生まれ、育ち愛し合った二人。嵐が来ても、海が凪いでも、私たちは世界で二人きり。それは永遠。